あぁ、素敵な写真だなぁ。この人の目には世界はこう見えているのか。まったく頭の中を覗いてみたいものだ。

今回紹介する本は、とある達人のそんな頭の中がわかる本です。

尊敬するフォトグラファー南雲暁彦さんの最新書籍「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」が先月出版され、ようやく読破。
そもそもは玄光社の月刊「コマーシャル・フォト」での連載に加筆されたものです。私もWeb版でずっと追いかけていました(←買え

発売から1か月もかかったのは、過去何回も生き別れているのにまた懲りずに姫を探す、かと思いきや、Myガンダムのような造形物を作っては壊し、気ままにハイラルの地を放浪していたわけではありません。
するめのように嚙めば嚙むほど味がでる、一粒で二度美味しいグリココスパ、まさにオイシイ読書を堪能していたのであります(よし、それっぽい言い訳はばっちr

この本のIDEA~素敵な写真は素敵な人から生まれる


ある時はテキストを追わずに写真をただただ眺め、またある時は撮り方が気になった写真の説明を探す。
指南書でもあり作品集でもあり、カタログでもあり、アイディア集でもあり。
きっと一読しても、またふと読み返したくなる。長く、深く付き合える1冊です。

チャプター構成は、まず言いたいことを1枚で表現するメインビジュアルがあり、それを撮影したレンズ、機材の説明。
撮影テクニック、別の作例バリエーションと続き、最後をしめるコラムは、写真のことだけではなくて、筆者の人となりや生き方がわかるエピソードに考えさせられたり、ほっこりしたり。
便宜上は「レンズ編」「カメラ編」「被写体編」などカテゴリ別に分けられていますが、結局はこの感動を生み出すためにどの要素もつながっていて、湧き出る疑問とひらめくアイディアの答え合わせに、結果ぐるぐる読み返すことになりました。

 

私が一番衝撃を受けたのは、水と油が織りなす境界線の写真。
誰が水と油を混ぜた水面をこんな芸術に昇華できると、そもそも撮影してみようと思うだろうか。

しかも普通のべに花油!私も使ってるオリーブオイル!

南雲さんの写真の底に流れるのは、膨大な経験とたゆまぬ努力と変態的な好奇心。
「IDEA」とはアイディア(思い付き)でもあり、イデア(思考、理想)でもある。
どちらかだけではなく両輪あってこそ、というこの本のタイトルはまさに絶妙で、著者の経験と人生を注ぎ込んで伝えたいという覚悟が感じられました。

ちなみに、この本で紹介されている作例は、南雲さんの公式サイトのギャラリーページで見られるので、まずは写真からでも見てほしい!

南雲暁彦 Official Website – IDEA of Photography
できれば大きな画面で部屋を暗くして鑑賞すると没入感大です。

私のIDEA~そこにI(dea)はあるんか?

私はブログを書く前から写真を撮るのも見るのも好きでしたが、万人が目を奪われる絶景写真より、普段なら見過ごしそうなものでも、一瞬で本能に呼びかける何かがあるスポット、例えば光と影のコントラストで全く違った魅力が映る(映ってしまう)ような写真が好きです。
理屈じゃなくて、もうなんとなく。

それは何気なく触れている日常の中で、結果頭に残ってしまう広告写真と似ています。

直接見たり触ったりできない人の脳髄に、写真1枚で被写体の質感や魅力や人物像や人生までも植え付ける圧倒的な情報量。
購買意欲を掻き立てるという最高難易度のハードルをいとも簡単に乗り越えさせる引力。
如何ともしがたい経済力不足著しい我が家にあっても、写真や動画を見た脊髄反射で衝動買いを何度したことか。

見る側の思考が動かされるのだから、もちろん撮影者側にも強烈な思考があるはずで、どれだけ被写体と向き合い、魅力を引き出すかをとことん考え抜き、理想を突き詰めていく。
その過程がこの本に詰まっていて、ノンフィクションドキュメンタリーみたいな面白さも感じます。

百戦錬磨のコマーシャルフォトグラファーである南雲さんの写真は、要するに私のどストライクであり、神なんよなぁ。

結果、深夜12時にやおら部屋の灯りを消してこの本の表紙を撮り始める私。

写真の理想を追い求めることがIDEAなら、「撮りたい!」と思う衝動の源泉もまさにIDEA。
ただ、その生まれた衝動を具現化するには、やっぱり機材やライティングや撮影技法を知ることも重要で、また最初のページから読みたくなる無限スパイラルです。

ちなみに、前回完敗した南雲さんの撮影講習会「PICTURE-RIUM」第2弾、懲りずにリベンジしてきます(笑)。
嗚呼、簡単に突き動かされすぎる、鴨ねぎ日本代表よ。でもそんな私のIDEA、嫌いじゃない。

まだ、6/1、10に空きはあるみたいですよ。

前回の記事⇒「PICTURE-RIUM(ピクチャリウム)フォトグラファー南雲氏に学ぶ撮影の極意」参加レポ

おまけ:我が家のIDEA~車の話とiPhoneの話

うちの旦那さんにこの本を読んだ後に感想を聞いたら、「カメラが欲しくなってきた」と。

(私)「今カメラを買うとしたら何を買いたいの?」(金に糸目を付けない前提)

(夫)レンズ交換式のコンパクトミラーレス。SONYならα6000系のイメージ。
ボディは大きめのコンデジ、大口径レンズをつけると途端にバランスが悪くなるけど、自分の指と志向にぴったりフィットするもの。
車で例えると、大きさはコンパクト、でも積載量は多め。ワゴンじゃない。

初代日産 TIDAを20年乗り続けている我が家。「5ナンバー枠いっぱいのボディに、シーマ並みの室内空間」が売りだったTIDAは、経済的で取り回しの良い5ナンバー枠でありながら、何かと上質。
結局カメラも車も染みついた生活のIDEAによって導かれるらしい。

(私)「Leicaはどう?」(買ったら私が使う前提)

(夫)かっこいいけど、乗ってみたいけど、スーパーカーが欲しいわけじゃないからね。
-なぜ結局車なのか(笑)?

(夫)あ、iPhoneも欲しくなった。

(私)なぜ?

(夫)よくも悪くもiPhoneで撮った写真ということに意味がある。iPhoneで撮ったから仕方ないということもあるけど、iPhoneだったから撮れた写真もある。

いや、iPhoneで撮ったことないでしょや。XPERIAユーザーがよ。

元Macユーザーなので、スペック云々ではなく理屈抜きでAppleのソフト開発理念というか味に惹かれるらしい。
これもまた一つのIDEAなのか。

この本ではiPhoneで撮った写真と技法も紹介されている。

 

あれこれ大それたことを書いてしまったけど、単にこれを読んで「写真が撮りたいな」と思った人が一人でも増えたら、本当に素敵だなと思います。
とりあえず、ふとスマホのカメラアイコンに指を伸ばす回数が増えたら嬉しいな。

写真を好きな人はもとより、いっそ写真を今まで積極的に撮ってこなかった人にこそ読んでみてほしい。
カメラやテクニックに興味を示さなくても、写真に触発されて、衝動を突き動かされたその先に、我が家の会話のように車とMacの話で盛り上がって、自分の知らない世界に導かれるなら、それはそれで面白そうだ。