新しくできたばかりの渋谷のビルの、少し混んだレストランで食事をした時は、窓から見下ろす交差点にはまだ光と人が溢れていてたことを思い出す。

私達は早足に食べ終わり、話もせずお茶を飲みほすと、彼女は「帰るね」とすまなさそうにお辞儀をし、私は彼女の手を支えて店を出た。

少し具合が悪かった彼女を駅の改札まで送り、家に着いたら必ず教えてと言うと、彼女はこくんとうなづいて、私のひじに捕まっていた手を離し、Suicaをピッと改札に当てると、そのままSuicaごと手を振って少し笑った。

帰宅中にスタンプと一緒に「また今度リベンジね」とLINEが来たので、私もやっと落ち着いて帰りの電車で2駅分眠った。

それからすぐに年が明け、世界は徐々に崩れていく。約束のリベンジはいつになるのか、どこへ行こうか、仲間の家で手作りパンパーティーをやろうか、やっぱりいつもの撮影散歩に行こうか。
そんなことをやり取りしているうち、東京五輪をはじめとする世の中のイベントは大きな消しゴムで全部なかったかのように消えていく。

緊急事態宣言が明けたらね。落ち着いたらね。絶対ね。

リベンジは果たせぬまま、私は彼女の訃報を聞いた。
10日前にはSNSにいいね!してくれてたのに?
世をむしばむウィルスより、彼女の体に入り込んだ病魔が憎かった。

こんな世の中だから、最後の別れもできず、お墓にも行けず、ちょうど1年経った今日も3度目の緊急事態宣言下で、あの日のSuicaバイバイから世界は何も変わらず止まったままだ。

大人も大人、いい年になってこんな親友ができるとは思わなかった。

電車の中で肩を貸し合いながらうたた寝したり、同じカメラに同じストラップでお互いを撮り合って鏡みたいだねって笑ったり、カラオケで声が枯れるまで歌って、同じ位おしゃべりをしてまた声を枯らして。

私の家族のJazzライブに来てくれるって言ったのに、推しアニメキャラのイベントがあるから行けないよんと謝りながら無邪気に笑う顔が憎めない。

話したいことが沢山ある。聞きたいことも聞いてもらいたいことがまだまだある。
1年も経ったから、積もりすぎて話し切れない。

楽しみにしていた漫画の新刊、3年ぶりにやっと出たんだよ。
よつばちゃんが石拾いをしにいった海は、何度も行ったあの海で、
バイパスの高架をくぐって広がる浜は、私達が最初に出会った場所だね。

あなたの代わりに今じゃお母さんとメル友だよ。
返信の速さと可愛い文章はさすが親子としかいいようがない。

ちょっと、聞いて!星野源さんが結婚するんだよ!あのガッキーと!

家族に愛されて、彼に愛されて、たくさんの仲間に愛された。
その全員と、いつか笑ってあなたの思い出話をしようねと約束している。

でも、まだ会えない。話せない。出かけられない。その日は遠い。
だから今日はこの辺で。

 

誰かと、何かを、ともに。

そんな当たり前のことができる世の中が一日でも早く訪れますように。
そしたら、一番に会いに行く。そう決めている。それが私のリベンジ。

*冒頭の写真は、思い出の海で撮ってもらった私。