2020年、世界中の人々を迎える準備を整えた東京。街は見る間に磨かれ、ピカピカの国立競技場は人々の歓声に包まれるはずだった。しかし、その舞台は無観客の静寂の中で、粛々と、けれど確かな熱を秘めてドラマを刻むことになった。
あの日から四年。ようやく胸を張って言える。

「Welcome to Tokyo!」——その瞬間が戻ってきたのだ。

開幕の言葉と笑顔

9/13(土)、東京2025世界陸上が幕を開けました。早朝から競歩や混合リレー予選などの激闘が始まるなか、同日の夕方には開会式とイブニングセッションが行われ、私もやはり「行くなら開幕の感動を!」と国立競技場に行ってきました。

日が沈み、辺りが暗くなっていく頃、競技場はどんどん人で埋まり、開会式が始まることにはほぼ満員に。(※後日発表:DAY1入場者延べ8万9000人余、うちイブニングセッションは約5万6千人)
まずは世界陸上TBSスペシャルアンバサダーの織田裕二さんが登場し、「34年ぶりに世界陸上が東京に帰ってきました。ついでに私も帰ってきちゃいましたぁ!」と叫ぶと、観客からは「待ってました!」との掛け声と拍手が。

「用意はいいですか?東京世界陸上、スタートです」

その言葉をきっかけに、過去のハイライト映像が流れ、カウントダウンがゼロになるといよいよ開会。

太鼓芸能集団「鼓動」のパフォーマンスに、ソプラニスタ(男性ソプラノ歌手)の岡本知高さんによる国歌独唱。空に突き抜けるような、心にずしんと響くような音圧と歌声に、世界大会開催の緊張感と重みが伝わりました。

続く主催者挨拶と開催地代表挨拶は、大型ビジョンには挨拶の原稿文が表示されているものの、両者ともにその言葉よりさらに熱を帯びて、この大会にかける想いを語り掛けてくれました。


世界陸連のセバスチャン・コー会長はコロナ禍のオリンピックを振り返り、「必ずやまた東京で開催すると約束した。今回は人々が見られなかったものをお目にかけたい。」と言葉を重ね、最後には「ありがとう!頑張ってください」というところを、「ありがとう!」を連呼するその姿に、いやいや、本当にありがとうを言いたいのはこちらの方!と嬉しくなって拍手が止まらない。

小池百合子都知事も「静寂に包まれたスタジアムから4年、ようやく世界の人たちをお迎えできました」と語り、観客もみんな笑顔でうなずきます。
あの準備が、東京が、ようやく本当の意味で完成したんだなぁと実感して、少し泣けました。

秋篠宮皇嗣殿下の開会宣言で締めくくられた開会式はおよそ15分。十分感動的な引き締まったセレモニーだったので、華美なパフォーマンスも楽しいけれど、オリンピックもこの位でいいんじゃないのか?

あの日の空と、今日の歓声

初日午後に先立って行われる予定だったブルーインパルス飛行が天候の関係で実現できなかったのは惜しかったけど、あの青空と五輪の輪は2021年の記憶に残しておけばいい。
今回は「人と声」が作り出す空気こそが最大の演出なのだから。

競技が始まると、日本選手が登場しただけで有名・無名を問わず地鳴りのような拍手と声援。モニターに映し出される選手はみんな本当に嬉しそうで誇らしげで、あの「生の歓声」を全身で浴びる感覚が、こんなにも尊いものだとあらためて思い知らされました。

声を枯らしながら国旗を振る人、スマートフォンで一瞬を収める人、ただただ拍手を送り続ける人。四年前、見守ることも、声を出すことすら叶わなかったことを思えば、今日の喧騒は夢のよう。
東京オリンピックの興奮をリアルに共有できなかった悔しさを抱えてきたからこそ、今この世界陸上での熱狂が胸にぐっときます。

特に印象的だったのはトラック種目。選手が1コーナーに差しかかると、その走りに合わせるかのように歓声が波のように広がっていく。2コーナー、バックストレート、3コーナー……声のウェーブは選手とともに移動し、最終コーナーを回ってゴールが見える頃には競技場全体が巨大なうねりに包まれる。同じ国立競技場でサッカー観戦もしたことあるし、大事な試合のゴールシーンのボルテージもすごいけど、それがずっと競技中絶え間なく続くような、独特の盛り上がり。
耳だけでなく地面を通して体に響くような振動は、テレビでは伝えきれない現地観戦ならではの体験でした。

女子10000m決勝で、日本の廣中璃梨佳選手が最後の最後に粘って6位入賞まで追い上げたシーンは、私はすでに競技場の外にいましたが、(多分ゴールしたであろう瞬間)聞いたことないボリュームの歓声が聞こえ、その熱量の凄さを外でも感じたなぁ。

それと同時に、これを4年前の選手にも味わってほしかったという悔しさがにじみます。これを背に競技できたら天元突破できた人が何人もいただろうに・・・。
今回の世界陸上はそれゆえにか、選手も最大限の力を発揮しようとし、スタッフもいい舞台を作ろうとし、観客も心から真剣に楽しもうとする熱量がひしひしと伝わってきました。

東京での世界陸上は折り返し、残すはあと4日。まだまだ数々の名シーンが待っているでしょう。

でも開幕の日の「ただそこにいられる喜び」は本当に純粋で大きな感動でした。
ほぼ1年間閉めていたこのブログに書きこまずにはいられないほどには。

——Welcome to Tokyo!ようこそ、熱狂の渦へ。
願わくば、あと何十年後でもいいから、今度こそ、今度こそ全国民と分かち合って言いたい。

お願いします。3回目のオリンピック誘致、頑張ってください。私も頑張って長生きしますから。